部族民通信ホームページ   投稿2025é年5月28日  開設元年6月10日
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レヴィストロース Anthropologie Structurale構造人類学3 エディプス神話

 
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ソフォクレス















ジャン・マレー演じるエディプス

構造人類学 3 第IX章魔術と信仰 « Magie et Religion » からエディプスŒdipe神話の分析
(本稿は2023年10月に当サイトに掲載したオリジナル稿を2025年5月に改訂した)

3_1エディプスŒdipe神話群

IX章第9節の主題は神話の構造 « La structure des mythes »

エディプス « Œdipes » 神話が採りあげられ北米プエブロ族の天地開闢神話に引き継がれます。まずŒdipe神話に取り組む。

母子相姦の悲劇、古代ギリシャ詩人ソフォクレス(写真、紀元前497~406年=Wikipedia)は「神のお告げ、人の宿命」と謳い、近世になってフロイトが「潜在意識」と暴いた。地理と時間の隔たりを超えた2の先達に加え、レヴィストロースは現実と信心の葛藤が共通項として潜在すると指摘する。そして「己の生まれは女の股か砂の芥か」古代ギリシャ言い伝えを紐解き、更にはヒトとは「混ざりもの、父と母、で生まれるのか己から生まれるのか」この苦悩が人の意識根本にわだかまるーとの独自の主張に進みます

己は混ざりか純粋か、謎解きにあたり古代ギリシャ神話のあらすじを : 

3_2 エディプス神話はカドモス・エディプス・アンチゴネーの3部に分かれる。

カドモス神話;ネットサイト(greek-myth.info/Athènes/Cadmus.htm)から抜粋

エウロペはカドモスの妹、牡牛に化けたゼウスに拐かされ、その背に乗って出奔する。カドモスは行方を追うも叶わず疲れ果てる。神託を伺う。「牝牛の後をつけ足を止めた所に街をつくりテーバイと名付けよ」牝牛が前を歩いている。牝牛は歩みを止めた。祭壇をつくり捧げものを用意した。大蛇が現れ鎌首の高さは木よりも高く、目に光り口からは三又の舌。家来たちはとぐろに巻かれ殺された。

カドモスは大蛇を仕留め歯を大地に捲いた。スパルトイ軍団が地から抜けでて互いに殺し合い、残った5人の協力を受けたカドモスはテーバイを建設する。カドモスと妻ハルモニアは市民に忌み嫌われ、テーバイを去った。カドモスは嘆く。「蛇になりたい」。とたん体は蛇に変身した。ハルモニアも神々に祈りました。2人は蛇になって森で暮らす。

エディプス神話(Wikipediaから抜粋)

ライオスはカドモスの曾孫エディプスの父。汝の子はお前を殺し妻(子の母)を知るとの神託を受けた。生まれた子の足を針で貫き(エディプス=腫れた足の語源)家臣に山に捨てろと命じた。家臣は羊飼いに渡し、羊飼いはコリントス王に預けた。成長して「父は殺し母を知る」神託を知り、出奔する。

旅、ライオスが前方から現れ道を譲るよう命令した。従わぬとみるや、彼の馬を屠る。怒ったエディプスはライオスを殺した。殺した相手が誰であるかエディプスは知らなかった。スピンクスは女面にして胴は獅子。山頂に座し、旅人に謎を掛け解けぬ者を喰らっていた。謎は「朝には四つ足、昼には二本足、夜には三つ足で歩くものは何モノか」

テーバイ人たちは「謎が解かれた時スピンクスの災いから解放される」との神託を得ていた。エディプスは答えた。「人間。幼年期には四つ足で歩き、青年は二本足で歩き、老いては杖をついて三つ足で歩く」スピンクスは身を穴に投じた。

Jean Marais演じるエディプス(オルフェとの伝も、ネットから採取)

エディプスはテーバイの王となった。実の母であるイオカステーを娶り、子をもうけた。男児はエテオクレースとポリュネイケース、女児はアンティゴネーとイスメーネー。

エディプスがテーバイの王になって不作と疫病が続いた。デルポイに神託を求めたところ、「ライオス殺害の穢れのため、殺害者をテーバイから追放せよ」神託を得た。エディプスは過去に遡って三叉路でのいざこざで、己が父を殺したと知る、母との間に子をもうけたこと、神託を実現してしまったことに怖れ震える。イオカステーは自殺しエディプスは絶望して自らの目をえぐり、娘と共に放浪の旅に出た。

アンティゴネー(Wikipediaから抜粋)

父エディプスが自分の出生の秘密を知って目を潰した後、イオカステーの兄クレオーンに追放されると、妹イスメーネーとともに父に付き添って諸国を放浪した。

父の死後テーバイに戻ったが、その時ポリュネイケースがテーバイの王位を取り戻すべくテーバイに攻め寄せる。攻め寄せた軍はことごとく打ち破られ、兄弟エテオクレースと相討ちで戦死。クレオーンは反逆者である彼の屍を葬ることを禁じるが、アンティゴネーは城門を出て兄の死骸に砂をかけ埋葬とした。彼女は捕らえられ、地下の墓地に生きながら葬られ、婚約者であったクレオーンの息子ハイモーンは彼女を追って自刃した。

 

3_3 エディプス神話群、4柱構成

エディプス神話群の筋は4の柱に分解される。

左端の柱の特質は « rapports de parenté sur-estimés » 近すぎる近親関係。

 « Tous les incidents réunis dans la première colonne à gauche concernent des parents par le sang, dont les rapports de proximité sont exagérés: ces parents font l’objet d’un traitement plus intime que les règles sociales ne l’autorisent » 232 左端の柱それを探ると血縁関係、その強すぎる接近を示す。社会規則がそれを認めない程の親密な交接を素材にする。

拐かされた妹エウロペ―をカドモスが探すー誘拐現場は侍女らに目撃されている。牡牛に乗って海に消えた。探しようが無いけれど妹との「近すぎる近親関係」の為せる熱望か、カドモスは捜索に出る。同柱の下部、エディプスが母イオカステーを知る(母子相姦)は近すぎる関係の最たる顕れ。アンティゴネーが死を賭してまでも兄ポリュネイケースを葬るも「近すぎる近親関係」を示唆している。

これらの兄妹関係の近すぎる中身をソフォクレスは語らない、原典にも派生異聞にも表されない筋道を創造するわけにいかない。しかし文脈を追えば彼らの濃密さは推察できる。また次章で採り上げるPueblo族(北米先住民)神話では、兄妹の近親姦が文化創造の節目となる役割を果たしている。この采配を勘ぐるとカドモス・エウロなどにそれなりの関係があった、とレヴィストロースが暗示している(と部族民は勘ぐる)。

すなわちソフォクレス、フロイトが着目した母子相姦(上下婚オヤコタワケ)をレヴィストロースは水平にも拡大して(水平婚アニイモトタワケ)、上下水平の近親姦の世界でヒトの世の穢れを嘆き、熱く肉厚に神話を謳い上げる。

一方、右端の柱は近親関係を否定する男たちが配される。そこに « les hommes naissent de la Terre » 男は「大地から生まれる」なる古の信心が秘匿される。(カドモスの子孫となる)ラダコス、ライオス、エディプスの系統、これら名称をギリシャ語原義に立ち入って「足の不自由」「大地生まれ」とレヴィストロースは結び付けている。

「男は大地から」は突拍子もない説に聞こえるが、レヴィストロースの創作ではない。238頁の脚注でギリシャ神話研究家のMarie Delcourt女史の説を引用している。 « Dans les légendes archaïques, ils (hommes) naissent certainement de la Terre elle-même » アルカイック伝説では男は大地から生まれる。古代に広まっていた言い伝え、男女の関係を地と空に喩える説から発展したと同女史の解釈を引用する(238頁)。

大地生まれに « autochtonie » の語をレヴィストロースは当てる。正訳は土着民。辞書にさらに尋ねると « issu du sol même où il habite » 自身が住む土から「出た」人とある(語源の古ギリシャ語の解釈)。「出た」の意味を順当に解釈すれば「そこから抜け出た、生まれた」となる。よって「大地の生まれ」を訳に当てた、レヴィストロースも古ギリシャに由来する語源に戻って「大地から生まれた」と解釈する。日本語の「産土」ウブスナと比定できる。

Le Robertを開くとautochtonie « être né de la Terre » が第3義にでてくる。引用元を本書238頁としている。レヴィストロース解釈が仏語圏で認められている証左と考えます)

 

3_4 エディプス神話群、中の2

中央の柱は左右端の結界を結びつける位置を占める。これをして « intermédiaire » 仲介役とする(図を参照)。柱内ではいくつかの出来事が発生し、その出来事が左右移動の仲介となる。 地から湧き出た兵士達(スパルトイ)は互いに殺し合い5人だけが生き残る。テーベを建設するカドモスに協力する。地から湧き出る戦士は男の大地生まれを地で行く。彼らの協力が近親姦の回避(最右の柱)に向かう。

2列目の柱 ; 大地生まれの障害となる怪物を殺し、男の大地出自を推進する試練と見る。狂言回しを演じる怪物(ドラゴン、スパルトイ、スフィンクス)にも大地との関連が指摘される。右端柱との関連は « Le trait commun de la quatrième colonne pourrait être la persistance de l’autochtonie humaine. Il en résulterait que la quatrième colonne entretient le même rapport avec la colonne troisième que la colonne 1ere avec la colonne 2eme » これらに共通の特質は人は大地から生まれるなる主張であろう。第一と第二柱(左端と隣)に認められる補完関係がここにも探せるのである。

出来事の流れが斜め下がりに動く。下がる流れの行くすえが、左右両端柱の縦の流れを形成する。これがヒト因果。結局は近親姦の穢から逃れ、また土の生まれにたどり着き、またも母子相姦に背を押される。


英雄の宿命
結界を越える因果

ソフォクレスが語ったエディプスの、眼を潰して彷徨いつも命の絶える哀れ様、永く人に語り継がれた。フロイトは男の願いと現実の落差の出どころが、生まれにまつわる呪いのまぐわい、父という名の他人男が介在する命の仕組みを男が否定する。それが深層と教えた。

4 結語。Œdipe神話の訴えかけ:男の大地生まれと近すぎる近親関係、いわば生まれの冷酷と生きる安逸を比較し指し示す。この両の世界、冷たさと享楽の対立が男の宇宙を形成するーエディプス、そしてフロイトの抱くヒトの由来の宇宙論Cosmologieとなります。

五尺五寸の身の置きどころ、享楽穢れか土中冷暗、いずれの間に定まらず。エディプスの彷徨神話は今も語られる。前述した宇宙論とは:欲と諦めを横糸に、宿命と抵抗を経糸に、人間限界の苦悩(深層心理の世界)を謳い上げる。

Anthropologie Structurale構造人類学 

IX章魔術と信仰 « Magie et Religion » エディプス神話 の了 (20255月)














牡牛に化けたゼウスに拐われ海を渡る
エウロペ































スフィンクスの問に答えるエディプス


写真はネットから
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